『中小企業の会計に関する指針』と『中小企業の会計に関する基本要領』のいずれにおいても、有価証券について減損に関する規定がありますので注意が必要です。
『中小企業の会計に関する指針』における減損処理規定
市場価格のある有価証券の減損処理
満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式、その他有価証券のうち、市場価格のあるものについて時価が【著しく下落した】ときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理しなければなりません。
ここで、「時価が著しく下落したとき」とは、その銘柄の有価証券の時価が、取得原価に比べて50%程度以上下落した場合をいいます。
この場合には、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないため、減損処理を行わなければならなくなります。
市場価格のない有価証券の減損処理
市場価格のない株式については、発行会社の財政状態の悪化により、実質価額(※)が【著しく低下した】ときには、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として処理することとされています。
(※)実質価額とは、原則として、その会社の1 株当たり純資産額に所有株式数を乗じた金額をいいます。
(1株当たり純資産額 × 所有株式数 = 実質価額)
ここで「実質価額が著しく低下したとき」とは、少なくとも株式の実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合をいいます。
ただし、市場価格のない株式の実質価額について、回復の可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしないことも認められています。
有価証券の減損処理を行った場合、市場価格のある有価証券については時価、市場価格のない有価証券については実質価額を翌期首の取得原価とします。つまり、減損処理を行った場合は、翌期の洗い替えは行われず、減損後の評価のままとなります。
なお、有価証券の減損処理について、法人税法に定める処理に従った場合と比べて重要な差異がないと見込まれるときは、法人税法の取扱いに従うことも認められています。
『中小企業の会計に関する基本要領』における減損処理規定
時価が取得原価よりも著しく下落したときは、回復の見込みがあるかないかを判断します。
回復の見込みがあると判断した場合を除き、評価損を計上することが必要となります。
ここで、「回復の見込み」については、「ある」、「ない」、「わからない」という3つのケースが考えられますが、「あると判断した場合を除き」とありますので、「ない」だけでなく「わからない」の場合も評価損を計上することになります。
「著しく下落したとき」とは、個々の銘柄の有価証券の時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には、これに該当すると考えられています。
有価証券の時価は、上場株式のように市場価格があるものについては容易に把握できますが、非上場株式については、一般的には把握することが難しいです。
時価の把握が難しければ、取得原価よりも著しく下落しているかどうかの判断も困難になると考えられますが、例えば、大幅な債務超過等により株式にほとんど価値がないと判断できるものについては、評価損の計上が必要になると考えられています。
有価証券の減損の法人税法における取扱いに注意
法人税法上は、上場株式等の時価が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回り、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないときは、有価証券の価額が著しく低下したものとして評価損の計上が認められています(法人税法施行令 第68条第1項第2号イ、法人税法基本通達9-1-7参照)。
上記の『中小企業の会計に関する指針』『中小企業の会計に関する基本要領』による減損処理のすべてについて、税務上も損金算入できるとは限りませんので、税務上の取扱いについては顧問税理士に確認が必要となります。