売掛金の期末残高については、主に以下の8点について注意しましょう。
1.架空または簿外の売掛金はないか
・存在していないのに計上されている(計上してはいけないのに計上されている)
・存在しているのに計上されていない(計上しなければならないのに計上されていない)
に該当する売掛金はないか、ということです。
架空の売掛金の有無は、まず売掛金全体の残高の前期比較や相手先別残高の前期比較により全体観を確認します。
売掛金が増加している場合は、実際にそれに見合う売上の増加や、期末に近いタイミングでの売上取引があったかどうかを確認しましょう。
増加が顕著な場合には、注意深く確認する必要があります。
個別の確認方法として最も信憑性があるのは、相手先に直接問い合わせて先方の買掛金残高を確認することですが、先方の業務を煩わせることになり行いづらいものです。
代わりに(自社が発行した)請求書や納品書の控や、売掛金に見合う入金が期末後にあったかどうかを確認するのも一つの方法です。
また、簿外の売掛金(売上計上漏れ)の有無も確認する必要があります。
売上計上漏れの修正は、通常は会社の利益を増加させ、同時に税金を増やす方向に影響します。
売上計上漏れが税務調査で発覚すると、「(重加算税の対象である)隠ぺいをしていたんじゃないの?」という疑いを持たれる可能性もありますので、売掛金(売上)チェック事項の一つとしましょう。
2.売上債権以外の残高が混入していないか
多いのは、売掛金残高に未収入金(未収金)が混入しているケースです。
相手先を確認すればすぐに分かる場合が多いですが、販売以外の取引も行っている相手先があれば注意が必要です。
「同じ債権だし、回収可能性に問題がなければいいじゃないか」
と思われるかもしれませんが、取引条件が異なる場合には、売上債権回転期間のような経営指標に影響を与え、適切な債権管理を行いにくくなりますので注意が必要です。
3.相手先別残高にマイナスの残高(赤残)はないか
相手先別の残高明細に、マイナスの残高となっているものが時々見られます。
残高がマイナスになる原因は、
・売上の計上漏れがあった
・先方が誤って過大に支払ってきた
・先方から将来の取引の前払分も含めた支払いがあった
・先方と認識している金額に誤差があった
等さまざまですが、原因を確認して、それに応じて会計処理を修正しておく必要があります。
放置すると原因が分かりにくくなり、債権管理がいっそう難しくなっていきますので、早期に把握・修正できるようにしましょう。
4.回収期日経過残高はないか
「あらかじめ決めていた支払期日を過ぎているのに未回収となっている残高はないか」ということです。
該当する残高がある場合、以下についての確認が必要です。
未回収となっている理由・原因
期末日が休日で銀行の入金処理のタイミングが遅れてしまったケースや、先方にてついうっかり支払が遅れてしまったというケースが多いですが、先方の資金繰りの事情等による場合も考えられます。
また、先方との債権債務の認識違いよる場合もありえます。
さまざまな理由が考えられ、それによって対応も異なってきますので、まずは理由・原因を確認しましょう。
回収予定日
期末日が休日だったことが原因の場合には、決算日直後には既に回収済でしょう。
たまたま先方にて支払が遅れてしまったという場合には、容易に回収予定日が確認できるでしょう。
回収可能性
回収予定日が確認できれば、回収可能性の問題は少ないでしょう。
他方、先方の資金事情や、先方との認識違いによる場合は、回収予定が「未定」となることもあります。
この場合、「果たして回収できるのか?」という回収可能性が問題となります。
期日が経過しているのに未入金ということは、現金残高が本来より少なくなっているということであり、資金繰りにも影響してきますので注意しておく必要があります。
5.取引の性質、相手先との関係およびその信用状態、現在の取引状況等に問題はないか
上記までの中で確認されるものもありますが、相手先の信用に関して懸念される事項が発生していないかどうかの確認です。
決算への影響もありますが、与信限度枠の設定や見直し、取引条件の見直し、取引継続の可否等について検討するうえでも重要です。
6.返品処理等の遅延により、未回収となっているものはないか
売り上げた製品・商品の返品があれば、適時にそれを会計処理に反映させる必要があります。
未回収の売掛金の中には「製品・商品は返品されていたのに、返品の会計処理がされていなかった」というものが含まれていることもありますので、決算時に確認しましょう。
7.(関係会社がある場合)親会社、子会社等に対して残高の確認を行っているか
親子会社のような関係会社がある場合は、関係会社間の債権債務残高について確認しましょう。
関係会社間で取引がある場合、その取引高も債権債務残高も基本的には一致しており、大きな差異は発生しないはずです(出荷⇔検収のタイミングや、銀行による入出金処理のタイミングによって一致しない場合もよくありますが)。
多額の差異がある場合は、先方か当社のどちらかの会計処理に漏れや誤りがある可能性が考えられます。
原因を確認して適時に修正しないと、(連結決算を行う場合)適正な連結財務諸表の作成が難しくなりますし、後になって関係会社間でトラブルになるおそれもあります。
関係会社間であれば、お互いの残高の確認は行いやすいと思いますので、少なくとも期末の決算時には行うようにしましょう。
8.期末日前後に異常な売上取引はないか
上記1との関連になりますが、期末日前後に異常な取引がないかどうか確認しましょう。
何をもって「異常」と見るかはケースバイケースですが、たとえば取引金額が通常の取引規模に比べて著しく大きい場合や、これまで取引したことがない、または取引の少ない相手先の場合等は、確認の余地があるでしょう。