節税に関する書籍で見かける節税方法に、
「翌期の費用を前払いする」
というものがあります。
具体例を挙げると、翌期1年分の家賃を今期中に前払いして、その翌期分家賃を今期の経費にする、というものがあります。
なぜ税務上、翌期の経費を前払いすることによって今期の経費にすることができるのかというと、このような法人税基本通達があるからです。
(※通達とは、行政機関において作成・発行されるもので、上級行政機関が関係する下級行政機関および職員に対して、その職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものです)
法人税基本通達2-2-14
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注)例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
この通達があることで、税務上は最大で翌1年分の前払費用を今期の経費とすることができるのですが、個人的には積極的におすすめしていません。
節税効果があるというメリットがあるのと同時に、以下のようなデメリットもあるからです。
デメリット(リスク)
1.節税効果は一時的でしかない
数字でシミュレーションしてみれば分かりますが、節税効果があるのは【最初に翌期の経費を前払いした、その期のみ】です。
数値例として簡易的に家賃を年間120万円、税率を30%として節税効果を考えてみます。
初めて前払いをした期(X1期とします)は、X1期分の家賃120万円と翌期(X2期)分の家賃120万円が税務上経費になります。
よって、X1期にはX2期分だけ多く経費にすることができ、節税することができます。
(具体的な節税額は、120万円 × 30% = 36万円)
翌X2期は、X2期分家賃をX1期にすでに経費にしているため、前払いするX3期分家賃のみが経費となります。
以降、X3期はX4期分のみ、X4期はX5期分のみ……という具合に、1年分の家賃のみが経費となります。
よって、節税できるのは最初に前払いした、その期のみなのです。
2.資金が先行して出ている状態がつづく
上の1と同じ数値例を用いて、資金状況を比較します。
前払いをしない場合は、家賃が毎期120万円発生し、その分だけ税金が軽減されますので、家賃に関して出ていくお金は(税金も考慮すると)
120万円 - 120万円 × 30% = 84万円
です(毎期同額)。
一方、前払いをした場合、X1期は「X1期分+X2期分」の家賃を支払い、その分だけ税金は軽減されます。
よってX1期は
120万円 + 120万円 - (120万円 + 120万円) × 30% = 168万円
だけお金が出ていきます。
そして、X2期以降は、翌期分の家賃を前払いし、その分だけ税金が軽減されるので
120万円 - 120万円 × 30% = 84万円
だけ毎期お金が出ていきます。
以上を比較すると、資金状況はこうなります。
(左が前払いしない場合、右が前払いした場合)
X1期 84万円 ⇔ 168万円
X2期 84万円 ⇔ 84万円
X3期 84万円 ⇔ 84万円
X4期 84万円 ⇔ 84万円
(以下同様)
前払いをする方が84万円だけ先行してお金が出ている状態がつづくのです。
3.「やっぱりやめた」ができるか?
先行してお金が出ていても、資金的に余裕があればよいでしょう。
しかし、いつ資金需要が発生したり資金繰りが大変になるかは分かりません。
家賃の前払いを始めたものの、資金需要が発生した場合に
「すいません。やっぱり前払いやめます」
と言ってスムーズにやめられるのか? ということです。
相手方であるオーナー(大家さん)にとっては、お金を前払いで先行してもらっている状態だったのに突然相手方の都合で元に戻されることになるので、
「そりゃないよ」
となるかもしれません。
リスクを踏まえて実行した方がいい
家賃を例に挙げましたが、保険料でも他の経費でも前払いによる節税は、上記のようなデメリット(リスク)もあります。
実行を検討される場合は、上記のようなポイントも考慮に入れられるとよいでしょう。