有価証券の期末時の評価についてですが、ここでは『中小企業の会計に関する指針』(以下、『指針』)と『中小企業の会計に関する基本要領』(以下、『基本要領』)を取り上げます。
評価方法と評価基準
評価については、「評価方法」と「評価基準」という言葉があります。
「評価方法」とは、取得した時の単価が異なる同一の資産(例えば、別の時期に購入した同じ銘柄の株式)をどのように評価するか、というものです。棚卸資産で言えば、先入先出法や個別法、総平均法などが評価方法にあたります。
一方、「評価基準」とは、「どの金額をもって貸借対照表の金額とするか」というものです。棚卸資産で言えば、原価法や低価法が評価基準にあたります。
評価方法については、『指針』『基本要領』ともに、移動平均法または総平均法によることとされています。
一方、評価基準については、会計基準によって評価の仕方が異なってきます。
それぞれ以下のように評価することになります。
『指針』における評価基準
まず、保有目的にもとづき、以下の4つに分類します。
(1)売買目的有価証券
(2)満期保有目的の債券
(3)子会社株式及び関連会社株式
(4)その他有価証券
(1)の売買目的有価証券は、時価の変動によって利益を得ることを目的として保有している有価証券をいいます。
この売買目的有価証券は、時価を貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損益(営業外損益)として処理します。
なお、『指針』上は、時価変動益を得ることを目的とするのであればこれに該当することになりますが、法人税法の規定では、以下の場合に限定されています。
①専担者売買有価証券(トレーディング目的の専門部署を設置している場合に、その目的のために取得した有価証券)
② 短期売買有価証券(短期売買目的で取得したものである旨を帳簿書類に記載した有価証券)
③ 金銭の信託に属する有価証券(金銭の信託のうち、信託財産として短期売買目的の有価証券を取得する旨を、他の金銭の信託と区分して帳簿書類に記載したもの)
(2)の満期保有目的の債券は、満期まで所有しつづける意図をもって保有する社債その他の債券(満期まで所有する意図をもって取得したものに限る。)をいいます。
株式には「満期」というものがなく、該当しないので、ここでは評価の仕方は割愛します。
(3)の子会社株式及び関連会社株式は、取得原価をもって貸借対照表価額とします。
(4)のその他有価証券とは、上記(1)~(3)以外の有価証券をいいます。
長期的な価格の変動を利用して利益を得る目的の株式や、取引先等の業務上の関係から長期保有する株式も含まれます。
その他有価証券のうち、市場価格のあるものについては、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額(税効果考慮後の額)は洗替方式に基づき、全部純資産直入法又は部分純資産直入法により処理します。ただし、市場価格のあるその他有価証券を保有していても、それが多額でない場合(※)には、取得原価をもって貸借対照表価額とすることもできます。
市場価格のないものについては、取得原価をもって貸借対照表価額とします。
(※)多額かどうかの判断についての具体的に数値や金額が明記された基準はありません。総資産に対する有価証券の占める割合や、評価差額の重要性などを総合的に勘案して判断することになります。
『基本要領』における評価基準
『基本要領』では、『指針』のような保有目的による4分類は行わず、有価証券は原則として取得原価で評価することとされています。
ただし、短期間の時価変動によって利益を得る目的で、相当程度の反復的な購入と売却が行われる、法人税法の規定にある売買目的有価証券は時価で評価することとされています(評価差額は当期の損益(営業外損益)として処理します)。