繰越欠損金。節税対策を行う前に確認しておく

 

決算が近づいてきて、利益の見込額が分かると、節税対策の実行を考える会社(あるいは個人の方)も多いでしょう。

節税は、利益が出そうだからといって、ただやみくもにやれば良いわけではありません。
どのくらいの節税をすべきか(したいか)も検討するようにしましょう。

 

ここでは、節税対策の実行を考える前に確認したいことを一つ触れておきます。それは

 

繰越欠損金があるかどうか、あるならどれくらいあるのか

 

です。
ごく当たり前のことに感じられる話なのですが、「利益が出そう」ということだけで慌てて節税を考えたり、経費を計上しようとすることもありえますので、今一度確認しましょう。

 

欠損金の繰越控除制度について

欠損金の繰越控除制度とは、青色申告をしている会社(法人)が、過去の年度の税務上の赤字を、今期以降の黒字と相殺できる制度をいいます。
そして「繰越欠損金」とは、将来の税務上の黒字と相殺できる過去の赤字額をいいます。

 

青色申告法人の場合、過去に発生した赤字については、当期以降の黒字と相殺させて、当期以降の税負担を軽減させることができます。

例えば、今期黒字となり、課税所得が100万円となる見込みであっても、前期までに200万円の繰越欠損金(税務上の赤字)があった場合は、今期の課税所得100万円は前期までの繰越欠損金と相殺されることになり、今期分の納税額がゼロとなります。(※)

また、今期の課税所得が上と同じ100万円となる見込みでも、前期までの繰越欠損金が50万円あった場合には、50万円分が相殺されて、今期分の納税は50万円に対して課されることになります。
つまり、過去に赤字だった事業年度があれば、税務上は、その時の赤字額と今期の黒字額とを相殺することができるのです。

 

(※)「中小法人等」の場合を想定しています。「中小法人等」とは、次の法人を言います。

資本金(または出資金)の額が1億円以下の法人、又は資本若しくは出資を有しない法人(相互会社等、資本金の額等が5億円以上の法人等(大法人)の100%子法人及び100%グループ内の複数の大法人に発行済株式等の全部を保有されている法人を除く。)

公益法人等

協同組合等

人格のない社団等

 

「中小法人等」に該当しない場合は、繰越控除できる金額が、次の通り段階的に引き下げらます。

平成27年3月31日までに開始する繰越控除をする事業年度 繰越控除前の所得額の100分の80相当額
平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する
繰越控除をする事業年度
繰越控除前の所得額の100分の65相当額
平成29年4月1日以後に開始する繰越控除をする事業年度 繰越控除前の所得額の100分の50相当額

 

注意点

ただし、無制限に過去の赤字と相殺できるわけではありません。

注意したい点が3つあります。

 

まず第一に、欠損金の繰越控除制度を適用できるのは、青色申告書を提出した事業年度の欠損金である点です。

現在は青色申告書を提出していても、繰越控除したい過去の欠損金が白色申告書を提出していた年度のものの場合は、その欠損金を繰越控除することができません。
反対に、欠損金が発生した事業年度において青色申告書を提出していれば、その後の事業年度で白色申告書を提出していても、その青色申告書を提出した年度の欠損金は繰越控除することができます。

したがって、繰越欠損金がある場合でも、その欠損金が発生した年度には青色申告書を提出していたかどうかの確認が必要になりますのでご注意ください。
(法人税申告書の別表七(一)で確認できます)

 

第二に、欠損金が発生した事業年度(青色申告書を提出)の後の各事業年度においても、連続して確定申告書を提出している必要があります。

確定申告書を毎年度提出している法人でないと、欠損金の繰越控除を適用することはできないということです。

 

第三に、欠損金を繰り越すことができる期間が限定されていることです。

平成20年4月1日以後に開始した事業年度においては、繰越控除ができる期間は9年間とされています。

繰越控除の期限切れにも注意が必要です。
(こちらも法人税申告書の別表七(一)で確認できます)

 

なお、「赤字→黒字→赤字→黒字・・・」のように、年度によって赤字と黒字が交互に発生している場合は、古い年度の赤字額から順に繰越控除されます。
自社における繰越欠損金の状況は、法人税申告書の別表七(一)で確認できますので、一度確認されると良いと思います。

もっと詳しく知りたい場合は、国税庁のこちらのページをご参照ください。